天才と厄災

天才と厄災


 SRTとして、今日は特別な来賓があるとのことでシャーレの警護を申し付けられ、小隊員とともにシャーレ周辺の警備を受け持っていたときのことだった。

 爆発音とともに周辺に不良生徒たちが現れ、ヴァルキューレ側の警備員達や不意を突かれたSRTのメンバーも何人か怪我を負わされてしまった。


「ヴァルキューレは民間人の救助とシャーレ部室の出入り口を固めるように! 襲撃者にはSRTが対応する! 民間人の保護を最優先にしろ!」


 警備を受け持っているからと言って、最初から襲撃される前提で心構えをしている生徒はやはり少なかった、当たり前だろう、いくら重要だと言われても自分が担当になった時に襲われる、なんて確率はそうそうあり得るものではないからだ。

 前提として特殊部隊として展開制圧や隠密と潜入が平時からの訓練内容にあるSRTと違い、治安維持組織の中でも町中の巡回警備に重きを置いて市民を見守る役割が多いヴァルキューレの生徒たちが不意を突かれて即応するのは難しいだろう、たとえそれが精鋭であっても。


『報告します、襲撃の対応にあたった部隊からの報告によると、矯正局を脱走した生徒率いる巡行戦車を含んだ部隊からの砲撃が原因で一般車両などを含む市街地への被害が大きいようです』


 背筋に冷たいものが走り、私の脳内は拙い、という感情で支配された。

 矯正局は今日のシャーレ以上に厳重な警備で固められていたはずだが、その警備を突破して脱走できるような生徒は、我々SRTといえども分が悪い。

 正確に言えば、制圧することは可能だし、ヴァルキューレと協力すれば労せず動きを封じて捕らえることだって可能だ、だが、こと市街地戦において我々SRTとヴァルキューレは民間人や周囲の建造物への被害を最小限に抑えなくてはならない。

 つまり巻き込まれる物や人を無くさなくてはならないのだ、それが市民を守る盾としての義務であり、存在意義だと私自身も思っている。

 だからこそ、矯正局を脱走できるような実力者がシャーレを含む外郭都市部の襲撃に関与していて、戦車まで率いているとなれば、SRTの得意分野である機動力を生かした電撃戦がやりやすい市街地は、盾に出来ない障害物と詰まった路地が多いだけの狭所でしかないのだ。


「わかった、私が対応する、お前たちは協力して民間人と周囲の建造物への被害を抑えるように動いてくれ」


 誰だかはわからないが、愛するべき市民が居る市街地で好き放題遊ばせてやるほどSRTが甘くはないということを理解させてやる必要があるようだ。

 私はそのまま報告のあったポイントへ向かい、周辺に居る不良生徒たちを素早く一蹴すると、件の首謀者と相対することになった。


「狐坂ワカモ……お前だったか」


 今回のような襲撃事件を数多く引き起こした上で、全てを踏み潰して嵐のように暴れまわる事で有名な生徒、理由など無く自分の中の破壊衝動のままに目に付く物を壊すためだけに暴れる癇癪持ちのような奴、というのが私の狐坂ワカモへの認識だった。

 とはいえ戦闘力は折り紙付き、程度で計れるような生易しい相手でもない、銃剣付きの小銃を羽のように振り回し、隙を見せれば強烈な狙撃を繰り出し、近寄れば銃剣で切り刻まれるのだ。

 そこら辺にいる有象無象の不良生徒たちとは格の違う戦闘力と、脱走してまだそこまで日も経っていないのにも関わらず周辺の不良生徒をまとめ上げて同じ場所に同日に襲撃させられるような手練手管、他者を顧みず自らの衝動のままに暴れる凶暴性、どれをとっても圧倒的、だからこそ今ここにいる生徒では私以外は止められない、そう確信していた。


「あら、連邦生徒会の飼い犬ではありませんか、私の邪魔をしに来たのですか?」


 嘲笑的な声色だった、あからさまに私達を軽く見た態度は、お前ら程度には私は止められない、という確信めいた自信に裏付けられたものだった。


「あぁそうだ、狐坂ワカモ……いや、厄災の狐、SRTがお前を拘束する」


 さぁ、市民を守らなくては。

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